〜つながり2019 10月  No.106より〜

昨年の父の日に、息子から『道は開ける』(デール・カーネギー著、香山晶訳、創元社刊)というか本をもらった。すでに300万部も売れているらしい。しかし、聖書を愛読している者にとっては、この種のハウツー本にはあまり興味がわかなかったので、読まずに本棚に置いたままであった。

この夏は私にとって最大の試練の季節であった。「これでもか、これでもか」と次々に困難に襲われ、嵐と大波にさらされた大海の小舟のようにもみくちゃにされた。主に助けを求め続けたが、試練はまだまだ続きそうだった。

「これ以上は耐えられない、もうダメだ!」、「あわや沈没!」と思ったその日に、突然、奇跡が起きて試練が過ぎ去り、嵐と大波は静まった。まさに、「道は開ける」を体験した。

そして、何気なくカーネギーの本を読んでみた。原題は、「いかにして悩みを克服し、新しく生きるか」である。クリスチャンのカーネギーは非常な悩みの人であったが、悩みを克服するために、医学、心理学、哲学、神学等いろいろな分野の書物を読破し、さまざまな人たちの体験談を聞いた結果を本にしたのだった。この本は単なる成功哲学のハウツー本ではなく、神を信じる信仰によって試練を乗り越えた多くの人々の証し集でもある。

円の支配者

この本を読んで、長年日本に滞在し東京大学で学んだこともあるドイツ人経済学者リチャード・ヴェルナー氏の衝撃的な証しを思い出した。

彼はオックスフォード大学から多額の研究費を支給され日本の経済発展の秘密を調べて論文を書くために日本に6ヶ月間派遣された。日本銀行の協力を得て、膨大な調査・研究をし尽くしたが、提出期限が間近に迫っても、論文のテーマすら決まらなかった。それまで順調にエリートコースを歩んできたヴェルナー氏の人生最大のピンチである。非常に苦悩し夜も眠れず、「主よ、もし論文を書き上げることができたら、私のすべてを捧げます!」と、切羽詰まった彼は自宅のリビングで一晩中神に助けを求めた。

祈り終わって、ふと部屋の壁に飾っていた絵画を見上げた。それは彼がスペインを旅行した時にマドリードの骨董店で買ったドラクロアの作品だった。湖の上で嵐にさらされた小舟が大波をかぶって沈みそうになっている。数人の男が必死に水をかき出しているが、一人の男が舳先(へさき)で横に眠っている。その瞬間、寝ている男がイエス・キリストであることに気がついた。あわてふためいている男たちはイエスの弟子たちであった。それまではその作品を単なる風景画としてしか見ていなかったが、実はマルコの福音書4章35〜41節の場面を描いたものだったのだ。

「嵐と大波の中でもイエス様は私と共におられるんだ!ああ、だから大丈夫だ!」ようやく平安を得た彼は、短時間ではあったが久しぶりにぐっすり眠ることができた。

目が覚めると自宅近くの教会に行き感謝の祈りを捧げた。ふと壁にかかっている絵を見ると、なんとそこには、同じ小舟の上に立って嵐と大波をしずめてキリストの姿が描かれていた!

思わず鳥肌が立ったとたんに、脳裏に一瞬ひらめくものを感じた。それは論文の結論であった。彼は急いで研究室に行き、これまでの研究データを分析してまとめると、すべてが結論にピッタリ当てはまった。あっという間に論文を書き上げた。彼の論文は世界中で注文を浴び、『円の支配者』というタイトルで出版された本は一大ベストセラーになった。